らくえん

どこへも行けないのなら ここを楽園にしよう。
らくえんってどんなところだっけ? 行ったことはない、それらしい写真はこことは似てもいないエメラルドグリーンの海だったり深々とした緑がこぼれる森だったりした。

コンクリートの建物やひっきりなしに行き交う車トラックバスバイク、高速で駆けていく電車地下鉄新幹線、見渡す限りの人ひと人々、通じない言葉の群れ、点滅するネオン、線路わきのぬかるみ、どこかに置き忘れてきた街路樹の森、この中に埋もれているわたしたちひとりひとり。
冷えたガラス、写真の中のエメラルド、くずれたお城、端の欠けた扉、エイのぬいぐるみ、ちぐはぐな飾りボタン、山積みの本棚、くたびれたランドセル、お古のパソコン、夕方のアルトリコーダー、匂いの染みたタオルケット、秒針の止まった時計、抜けるような青空、こんな小さな集めたもの。

嘘みたいに白い橙色の部屋。水道が流れていて、灯がある。
外は危ないものがいっぱいだからって保険をいくつも(生命用持ち物用病気用……)持っているけれど、ここなら解放される。
夜の息吹も朝の静寂も頭の影だけ見せて戻ってゆく。けたたましいサイレンも壁の向こう甘い音楽のよう。

ひとりでもいい、きみもいるといい。ことばが伝わるから。
街路灯にけむる星空を眺めよう。半分にしたタオルケットに包まって。
はばむものがないここはつかの間であっても、わたしたちのひみつになる。


2015/4/7