いま、乾いた海へ行かねばならない
この長い引き潮のうちに
(引いては寄せるあの音を頼りにするつもりだった、)
わずかに届く水の匂い、
確かなゆらぎを辿って

かつて私を抱いた海も今は干しているのか
わかりようもないがここを抜けただろう、
痕がほんのりうつる

まだ月は力をひそめている
羽化するための時間を残しているのだ、
満ちてゆく明日を岸辺に置いて
ひとときの覚悟を持つ

薄闇の固い地を足裏は捉え撫でる
愛でるように摺り足で進み
気配をひそめ、喉の奥でうたう

 大きな目が潤んでゆく、しずくが海となる、落ちては吸われてゆく、
 ゆるやかにさざなみが起きる、海の渇きが、

わずかな痛み 薄明の潮の内へと降りる中で
ざらついた海を踏みしめる
足裏はやわらかいまま 原初の色を抱く
突き動かされてやって来た

 月が通り始める、引き寄せて連れて行く水を、匂いが近くなる、
 ゆらめいて拡散し反射する光が伸び、途切れていた音が、

遠く光が見え、引き寄せられる音がする、
このくらいの広さで足りるのだろうか、
未明の中
小さく波音が立ち
水がひたひたと霞みながら寄ってくる

泡立つくるぶしを叱りつけて
この場に立ち続けて見ていれば
ざらつきが滑らかに変化して
爪先に温い水が触れる

私もまた
月にゆらぐものであった
潮が満ちる 私の湾を埋めていく

2016/4/9