混線

電車が揺れ、不意にあなたとわたしが触れて、鳥肌が立つ。
こんなにも温度がちがうのに同じ生きものだなんて。
冷たさと熱さが交錯して、混乱するわたしたちの輪郭線。
ゆめゆめ慣れてはいけない。
他者の輪郭は尊重するものだ。
すぷ、と指をうずめる、それだけで変わってしまうのだから。

バスに乗りそれぞれの帰り道につく、はずだったのに
輪郭線がゆるさないから、仕方ない、近いほうのわたしの家へ。
冷えている私、あたたかなあなた、適温になった輪郭。
さっきぶつかったとき、熱っぽかったから送っていくという、
あなたの意図が分からないけれど。

混線したまま、あなたの言う通りわたしの熱を測ってみる。
体温計が示す温度で何がわかるというの、
冷えた体表より冷たい金属部分を挟みこむ。
短い電子音。黒く浮かび上がる数字。
さんじゅうなな てん よん ど。
デジタル表示はすぐに気分を変えて一瞬の後に、全く違う数値をひらめかせる。
さんじゅうろく てん く ど。
いつもより高いことは確か、微熱、平熱、どちらでもよく、
互いのぬくみに電流が走った、ことにして、
何度もわたしの温度だけを吸い取る体温計を仕舞う。

熱、のせいで感覚がおかしくなっているのだとあなたは言う。
あなたは輪郭が混ざってしまっていることに気づいていないだけだ、
こんなにあなたもわたしも崩れているのに。

ねじれた輪郭があなたとわたしを不可分にしようとする。
わたしからあなたを、あなたからわたしを
引きはがさなければ、可及的速やかに。
でも、どうやって。
このまま、絡まったまま、生きてはゆけない。
わたしたちは不可分、であってはならないのだ。

ためしに、ぬるま湯で手を洗う。泡の中にかすむ手のひら、崩れた線。
触れるものに対して清浄で、あなたとわたしが部分的に清潔になる。
わずかにふやけた皮膚からほどければいいという思いとは裏腹に、
むしろ乾いていくそばから強固になっていく。

椅子に座るとわたしは半分くらいしか座面に触れていない、あなたは立っているから。
信じられるのは感覚だというのに、あなたは輪郭をしゃんと持っているように見えて。
いったい、ただしいのはどちら。

混乱した頭を抱えていると差し出される、あなたがいつも持ち歩いている解熱鎮痛薬。
わたしが求めているのはそれではない、あなたを裏切らないよう飲み下す。
絡まった輪郭の内側、どこで効果を発揮するのか。
もう眠るといい、という声に、頷くしかなくて、帰っていくあなたを見届ける。
少しずつ千切れていく輪郭。ほどきたかった、それが、ぶつ切りになる。

わたしのかたちを編み直そうとして、滑る視界、つまづく指先。
一体どんな姿だったか。細部まで覚えていないから、留まっている。
その間に、途切れた輪郭がみずから繋がろうとうごめく。繋がってしまう。

強制的に断ち切られて再構築された輪郭線は頼りない。
わたしであるはずが、わたしでない。けれど、あなたでもない。
どうすることができよう。繋がった輪郭はもうほどけない。
自分の細部も覚えていない頼りない頭では。

わたしのかたちを諦めて
ふらふらとする身体で、ベッドにもぐりこむ。
暗闇に身を放り投げて、冷たいタオルケットに包まる。
それでも、目が覚めればこの輪郭にわたしはなじんでしまうのだろう。
はじめから、このかたちだったというように。

2016/7/16