あざやかな息

街の喧騒はわたしの耳を焼く。
泣き声、笑い声、言い争いに、
居場所を奪いあう静かな叫び声。
耳は閉じられないから、
ひりついてばかりだ。

あふれる残像に目はつぶされる。
見たいものもわからなくなる日々に追われて
通りすぎる道にあるものさえ
見失っている。

冷やさなければ水ぶくれは広がり、
じぐざぐと痕になる。
鳥のさえずりを聞けなくなるのは
ごめんだった。

焼きついた映像を取り払って
光景を取り戻したい。
かたまりでしか描けない味気なさを
放り投げるように。

細い山道。
車では入り込めない土を踏む。
ひとあしひとあし進めて
分け入るほどに深くなっていく。

ひとみを覆う暖色。
細かな違いを見つめて見分けて微笑む。
かすかに冷えた空気を辿り、
せせらぎを捉えて耳は深呼吸する。
残響がこだまして、人の声を抑える。
絡みつく痛みもここまではやってこない、から
どこまでも伸びやかに。

あざやかに迫りくる
木々の葉は風になびいて
乱舞する、
だれもが。
山越えを果たす、その理由も置き忘れて。

目と耳が誘われるままに歩く。
水の流れが穏やかになり
ふいに現れる可憐な池は
色づいた葉に築かれた
ひとときのゆめ。

(消し去ってなるものか、
(残り香を含めて
(漂う指先がことばを結ぶ。

ああ、
あふれかえった混沌から抜け出て、
また、息ができる。


〇三二 山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり
百人一首アンソロジー さくやこのはな 参加作品
http://sakuyakonohana.nomaki.jp/

2017/1/20